プラークコントロールできていますか?

皆さんはご自分のお口の中をどのくらいキレイにしていますか?
毎日磨いている人、毎食後磨いている人、30分かけて磨いている人、マウスウォッシュも使っている人、様々なアイテムも駆使して磨いている人、はたまた疲れて帰って歯磨きもせず寝てしまう人、様々だと思います。
日々患者さんに磨き残しているところをしっかり磨けるように歯科衛生士は磨き方のコツをお伝えしています。
しかし患者さん本人の意識が向かない限りお口の清掃状態はなかなか改善されません。
今回はこのコラムを見た方がお口の中の清掃状態に意識が向くようにお話したいと思います。
プラークについて
近年プラークという言葉はCMなどでも耳にしている方は多くなったかと思います。
歯垢という方がわかりやすい方もいるかと思いますが同じものです。
ただプラークというと歯科以外でも使われることがあります。
例えば血管の中にもプラークはできます。
その場合のプラークはコレステロールの塊で血管を詰まらせたりする原因になります。
それと分けて表現するためにデンタルプラークという場合もあります。
今回は歯科でのプラークを説明するためデンタルを省いてプラークと表記します。
プラークは他の表面に見られる付着物を言います。
そしてそのプラークは食べかすとは全く違うものになります。
プラークは細菌と細菌の産生物でできています。
お口の中の清掃状態が悪いと細菌が集まり、プラークが形成されます。
プラーク中にどのくらいの細菌が住み着いているかご存知でしょうか?
1mgの中に約10億個もの細菌が存在すると言われています。
少し歯を引っ掻いてそこに付着した細菌数は数十億から数百億個の細菌がいると思われます。
それほどの細菌の塊がお口の中の至る所にベタベタと付着していたら…
その僅かなプラークがもしむせた時に肺に侵入してしまったら誤嚥性肺炎のリスクが高まることでしょう。
バイオフィルムについて
プラークの話をすると似た様なものでバイオフィルムという言葉も出てきます。
バイオフィルムは細菌が作り出す分泌物によりバリアができ、歯の表面に強固に付着します。
バイオフィルムは細菌が集まり、様々な環境の変化に対応するために自分たちを守ろうと膜を作るのです。
バイオフィルムは成熟したプラークと思って頂いていいでしょう。
そして身近なもので言うと台所の排水口のヌメりがバイオフィルムです。
排水溝のお掃除をすると分かると思いますがなかなかヌメりが取れないと思います。
プラークが付着し、2〜3日でバイオフィルムは強固になっていきます。
そして強固になったバイオフィルムは歯ブラシで取り除くのは困難になっていきます。
そうなると歯科医院での機械的歯面清掃が必要になってくるのです。
プラークと歯周ポケット
健康な歯と歯肉の隙間を歯肉溝と言います。
歯の表面にプラークが付着するとその中の細菌が毒素を出します。
その毒素が歯肉の細胞を破壊し、歯と歯肉の間に隙間ができていきます。
正常であれば2〜3mm以下ですがそれ以上に深くなったものを歯周ポケットと言います。
歯肉の表面は上皮細胞に覆われています。
その中には結合組織があり、血管や歯を支えるコラーゲン繊維などが存在します。
そしてその奥には歯槽骨という骨があります。
細菌や細菌の出す毒素がそこまで侵入して全身の健康にも影響を及ぼすことがないように上皮細胞は防波堤の役割をしています。
しかし歯周ポケットが形成され、歯ブラシが行き届かなくなると上皮細胞はどんどん根の先の方に深くなっていき歯周ポケットがどんどん深くなるという悪循環になっていきます。
歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラーク
プラークは大きく2つに分類されます。
歯肉の一番高いところ、歯肉の縁を境に上に付着するプラークを歯肉縁上プラークと言います。
反対に歯肉溝の中、歯周ポケットの中に存在するプラークを歯肉縁下プラークと言います。
この2種類のプラークの中に存在する細菌叢は異なります。
歯肉縁上プラークは酸素が大好きな虫歯の原因菌が多く、プラーク内は酸性の環境下になります。
歯肉縁下プラークは酸素が嫌いな歯周病菌が多く、アルカリ性で歯周病菌が増えやすい特殊な環境になります。
歯周病菌の集合体は見えないところでバイオフィルムを作り出し、気づかない内に少しずつ炎症を進行していくため定期的に専門的な機械を用いて除去することが必要になってきます。
歯肉炎の原因
デンマークの大学の実験でプラークと歯肉炎の実験があります。
2週間学生に歯磨きをさせず実験的に歯肉炎を起こし、プラークの量と細菌の種類と歯肉炎の状態を調べました。
すると1週間も経たずに歯肉炎が生じ、プラークが増えるごとに細菌叢も変化したそうです。
そして2週間後にブラッシングを再開したところ、プラークの量は減少し、歯肉炎の症状も見られなくなりました。
そして変化して増えた細菌も少なくなったという結果が出ました。
つまり歯磨きをする事によって歯肉炎は改善すると言う事です。ただし進行した歯周炎はブラッシングのみでは改善しませんので注意が必要です。
他にも様々な研究でブラッシングがプラークの減少に有効であることがわかっています。
また歯肉炎や歯周病の原因菌が多く存在する歯肉縁下プラークは除去することがとても困難です。
どんなに頑張って毛先の細い歯ブラシで歯肉の中まで磨こうとしても1〜2mm中に届けばいい方です。
では歯肉縁下をしっかりプラークコントロールすることは難しいのではないかと思われると思います。
しかし海外の研究で歯肉縁上プラークのコントロールにより、歯肉縁下プラークの細菌が減少するということが明らかにされています。
サルを使い、歯肉縁上と縁下プラークをしっかりと除去し、その後歯磨きを行ったグループと行わなかったグループで縁下プラークの形成について調べた実験があります。
ブラッシングを行なわなかったグループでは、ほぼ全てのサルに歯肉縁下プラークが形成されました。
しかしブラッシングを行なったサルの方は歯肉縁下プラークの形成は見られなかったそうです。
つまり、歯肉縁上プラークをコントロールすることによって歯肉縁下プラークのコントロールにも繋がると言うことです。
終わりに
私たち歯科医院では定期的なメインテナンスをお勧めしています。
それは何か問題が起きていた時に早期発見、早期治療が出来ることと健康増進を目的としているからです。
お口の健康を維持するためにはプラークコントロールが欠かせません。
プラークは細菌の塊です。
若いうちにしっかり磨けて虫歯もなく過ごしていた方が中高年になって急にお口の中のトラブルで受診される方も多くいらっしゃいます。
虫歯菌がそもそも少なくリスクが低い方でも、歯周病菌がいないとは限らないのです。
小さなお子さんが歯周病で歯がなくなったとはあまり聞かない話だと思います。
歯周病菌は10代後半頃から増え始め、プラークコントロールを疎かにしているとどんどん増殖しお口の中に住み着いていきます。
ですので若いうちから継続してプラークコントロールをしていくことが大切です。
そしてお口の中は徐々に変化をしていきます。
間違った歯磨き方法で歯肉退縮や歯を摩耗させたり、他の病気で飲み始めた薬の影響で歯肉が腫れることもあります。
そう言う細かい変化に気づき、適切なアドバイスを受けることで健康維持に繋がるのです。
またお口の中は十人十色で、歯並びの悪い方や手が不自由な方など、どうしても自分では磨けない部分も人によってはあります。
そう言う時は専門家による口腔ケアが必須になってきます。歯が抜けて入れ歯になり、噛めなくなってからではなく1本でも多く歯を残し、少しでも長く自分の歯で美味しく楽しくお食事ができるように早いうちからしっかりプラークコントロールをしていきましょう。
