唾液の働きを知っていますか?
私たちのお口の中には常に唾液があります。
唾液は通常ツバやヨダレとも言われ、吐き出されると汚いものとして扱われます。
歯科に従事している私も例外ではなく、まだ1歳にも満たない子供が、だら〜っとヨダレを垂らすとつい、あらら!ばっちいよ!と声を掛けてしまっています。
しかし、いざ診療になると唾液が少なくとても辛い思いをされている患者さんを診る事も多々あります。
今回はそんな当たり前にある唾液の働きに着目していきたいと思います。
1、唾液の主な働き
①食べ物の味を感じるのみならず、飲み込みやすくし、消化もしやすくする

唾液は元々が血液ですが赤血球などを濾過して透明な唾液が作られてます。
ほとんどが水分ですが1%はさまざまな物質が100種類以上も含まれています.
その中には食べ物を分解させる酵素も含まれています。
デンプンを分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するプロテアーゼ、脂肪を分解するリパーゼがあります。
ご飯を噛むと徐々に甘味を感じてきますよね。それはアミラーゼによりデンプンが分解されマルトースという麦芽糖に分解されるため甘味として感じることが出来るのです。その後小腸で再び分解されエネルギー源として吸収されます。
唾液に味物質が溶けて舌の表面の小さな器官である味蕾に味物質を届けることで味を感じます。
つまり唾液のおかげで日々の食事を美味しく楽しめるのです。
②抗菌、自浄作用で身体を守る
唾液には免疫抗体であるIgA(免疫グロブリンA)やラクトフェリンが含まれます。
IgAは侵入してきた細菌やウイルスにくっつき、毒素を無力化し感染しないように阻止する働きがあります。
ラクトフェリンは強い抗菌活性があります。病原菌も生存するため、増殖するために鉄を要します。
その病原菌の鉄を奪うことで細菌の増殖を抑制します。
またリゾチームという酵素は細菌の細胞壁を分解し、活動を停止させます。このリゾチームは涙や鼻汁、母乳にも含まれている酵素で至る所で免疫に作用しています。
他にもラクトペルオキシターゼやヒスタチンなど抗菌物質が含まれています。
また食事以外の安静時や睡眠中でも唾液は常に分泌しています。
分泌し続けることで口腔内を常に洗い流してくれています。この自浄作用により常に綺麗な口腔内を維持できています。
③虫歯を予防する
唾液は虫歯を予防する働きもあります。
前項で唾液が常に分泌している事をお話ししました。
虫歯は細菌が酸を産生して歯が溶かされることで生じます。その酸性に傾いたお口の中の環境を唾液が洗い流し中性に戻す働きがあります。これを緩衝能と言います。
この緩衝能は刺激唾液に多く含まれています。
常時分泌されている唾液は安静時唾液と言います。その唾液にも緩衝作用はありますが多くはありません。反対に刺激唾液は梅干しやレモンを想像したときや食べ物が口に入って味を感じたときに出てくる唾液のことでこの唾液が虫歯予防によく働きかけるのです。
また歯は主にカルシウムとリンで出来ていますが、それらが酸により溶け出ても(これを脱灰と言います。)唾液中にもカルシウムとリンが豊富に含まれていることで再吸収され虫歯になるのを予防しています。これが再石灰化です。
そして虫歯予防にフッ素が良いと耳にしたことがあると思いますが、そのフッ素が唾液のお陰で粘膜に留まり脱灰する時間を短くしてくれます。フッ素も唾液があってより効果を発揮するのです。
2、唾液が減るとどうなる?その原因とは?
様々な働きがある唾液ですがたくさん出てて当たり前ではありません。様々な要因で分泌量が減ることがあります。
では唾液が減ることでどの様なことが生じるのでしょうか?
①口腔乾燥が生じる
口の中の潤いがなくなるため、ネバネバ、べたべたした感覚やちょっとした刺激でも粘膜に傷が付きやすくヒリヒリしたり、口内炎や口角炎を起こしやすくなります。また舌がひび割れたようにもなります。
②味覚の変化
味を感じにくくなったり、味が変わったりすることがあります。
全体的に味が感じにくくなる他、異味覚を訴える事もあります。常時渋みを感じるなどの症状が出る事もあります。
③物が飲み込みにくくなる
食べ物を飲み込みにくくなる事で咽せやすいといった症状や食事に時間がかかるようになる嚥下障害が起きる事もあります。
④虫歯や歯周病の悪化
自浄作用が低下する事でお口の中は不潔になりやすく、そのため虫歯や歯周病が進行しやすい状態になります。
⑤口臭の悪化
唾液が減る事で細菌が繁殖しやすく、口臭の原因菌が増えるとその分口臭が強くなります。
⑥その他
睡眠時に唾液が少ないと不快感で不眠の原因になったり、喋りにくくなったり、免疫力も低下します。
3、唾液が減る原因は?
唾液が減るとたくさんの不具合が生じることがわかりました。
では何が原因で唾液は減少するのでしょうか?
①全身疾患や薬の副作用によるもの
シェーグレン症候群や糖尿病が唾液減少の原因になることはよく聞きますが、他にも頚部の放射線治療や更年期の影響などでも起こります。ストレスも交感神経が強く働いて分泌が抑制されます。緊張すると口がパサパサするのがこの状態です。
薬の影響もあります。抗うつ薬、抗アレルギー薬、降圧剤、抗不整脈薬など数百種類もあると言われています。
②アルコール、カフェインの摂取によるもの
前項でもお話ししましたが、アルコールもカフェインの摂取も交感神経が強く働きます。
これらは唾液だけではなく身体に様々な影響を及ぼします。例えばカフェインの過剰摂取はめまいや興奮、不安、不眠や下痢、嘔吐などが起こることがあります。長期摂取で高血圧のリスクが上がることがあります。ですので何事も適量で、過剰摂取にならないことが大切です。
③喫煙によるもの
タバコは有害物質としてニコチンやタール、一酸化炭素がありますがその中でタールが口腔内の粘膜に沈着して唾液の出る部分を塞ぎ唾液の分泌量を減少させてしまいます。
④物理的刺激によるもの
入れ歯を使用している方で唾液が減ってくるケースもあります。これは入れ歯が小さな唾液腺の上にあることで徐々に唾液腺が萎縮していくことによるものです。今まで問題なく使えていた入れ歯が合わなくなってきた、痛みがあるといった場合、唾液減少により入れ歯が粘膜に擦れるのが原因の場合もあります。
4、唾液は増やせる?
唾液は生まれた時から当たり前に出ていて、なくなって初めて重要性に気付きます。
では唾液が減ってきた時、増やすことは可能なのでしょうか。
①唾液腺マッサージやあいうべ体操
私達も歯科を受診された患者さんにまず唾液分泌を促すために唾液腺マッサージをお話しします。
特に重要なのが大唾液腺の耳下腺、顎下腺、舌下腺です。
この唾液腺は頬や顎の下を軽く刺激するだけでも効果があります。
お喋りや歌を歌うなど口を動かすことも効果的です。
意識的にお口の体操をするために、あいうべ体操もおすすめしています。
あいうべ体操は舌やお口の周りの筋肉を動かす事で唾液腺が刺激され、唾液の分泌量が増えます。
「あー」と大きく開けて閉じる時は耳下腺が刺激され、「べー」と舌を伸ばして戻した時には顎下腺、舌下腺が刺激され唾液分泌に働きます。
また、体操により口呼吸が改善されると口腔乾燥を防ぐことができるため唾液の減少を防ぐことが出来ます。
②水分補給
簡単な方法としては水分補給でしょう。
唾液のほとんどは水分ですので、体内の水分が少ないと唾液も減少します。
こまめに水分を摂取することをお伝えはしますが、理想は最低でも一日1リットル程度は摂取したいところです。
③鼻呼吸を意識する
普段無意識の中で呼吸をしていますが、皆さんは鼻で呼吸をしているでしょうか。
人は鼻で呼吸するように生まれてきます。生まれたばかりの赤ちゃんもおっぱいが飲めるのは鼻で呼吸ができているからです。
口呼吸になると空気がお口の中を常に通るため口腔乾燥は進行します。
鼻炎がある人はまず耳鼻科で治療をおすすめします。
寝て居る時いびきはかいていますか。いびきをしている人は口呼吸になっているので、いびきを改善すうる方法を考えていくこともおすすめします。
④唾液量を増やす成分を摂取する
ビタミンC、イソフラボン、リコピン、ケルセチンは唾液量を増やすと言われています。
ただし一時的ではなく習慣的に摂取することが重要です。
そして食事の際は噛みごたえのある物をしっかり噛んで食べることも意識してみると良いでしょう。
固いものだけでなく、少し大きめの食材でよく噛むことも咀嚼回数が増え効果的です。
まとめ
さて今回は唾液について色々説明させて頂きました。
健康であれば普段から唾液を意識することはとても少ないと思います。
しかし唾液が減ると様々な影響があります。
簡易的な検査ではありますが当院では唾液の質を調べることができる唾液検査も実施しております。
もし今気になることがあれば是非一度ご相談にいらしてください。