苦手な人も多い歯石取り…取らないとダメですか?

歯科衛生士として働いていると毎日必ず行う歯石取り。
キレイに取れるとスッキリ爽快感を得るのは患者さんより私たちかも知れません。
「あのキーンって言う音が嫌」「しみるし痛い」「ガリガリって頭まで響く」なんて言われることも少なくありません。
そこまでしなくても良いから…と思われるかも知れない歯石取り。
なぜ歯石を取らなくてはいけないか、今回は歯石についてのお話です。
歯石とは
皆さんは「歯石」をご存知でしょうか?
歯の表面に付いていても歯と似たような色で見分けがつかないかも知れません。
または歯垢との区別がつかない人もいるかも知れません。
とりあえず「歯」に付く「石」だと簡単に思っているかも知れません。
しかしこの歯石というものは、細菌を含むプラークが石灰化したものなのです。
歯石ができるメカニズムはこうです。
歯の表面に細菌(プラーク)が付着します。
そしてその細菌を含むプラークは、時間の経過とともに石灰化し始めます(一般的に数日〜2週間程度)。
そこを足掛かりにまた別の細菌が付着します。
その繰り返しで徐々に歯石は大きくなっていきます。
ですので歯石はプラークをしっかり除去することで予防できるのです。
そしてプラークに含まれる細菌のうち特に石灰化しやすい細菌がコリネバクテリウムという細菌です。
他にも放線菌や連鎖球菌という種類の細菌も関与しています。
きっかけはこれらの細菌ですが歯石を成長させる因子として唾液が大きな働きをしています。
唾液中のpH がアルカリに傾くと石灰化が促進され歯石がどんどん大きくなります。
そのため臨床でよく歯石の沈着が見られる部位として、下の前歯の裏側があります。
下の前歯の裏側の近くには舌下腺と顎下腺という大きな唾液腺の開口部があり、ちょうど唾液も溜まりやすいため石灰化しやすく歯石になりやすい部分と言えます。
歯石を構成する成分は約80%が無機質、残りの20%が有機質と水分です。
無機質が直接何か問題がある訳ではありませんが、有機質は基本細菌とその産生する毒素です。
ただの石のようでもプラークと同様に悪さをするのは変わらないのです。
歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石の違い
歯を見た時、歯肉の縁つまり歯と歯肉の際の部分を歯肉縁と言います。
歯肉縁より上を歯肉縁上、下を歯肉縁下と言います。
歯肉縁上は目で見えますが、歯肉縁下は普通見ることができません。
この歯肉縁を境に上につく歯石と下につく歯石は歯への付着力に大きな差があります。
歯肉縁上歯石は歯にくっつく力が弱く、取り除くのは比較的容易に行えます。
しかし歯肉縁下歯石は強く石灰化しており非常に硬いのが特徴です。
また色も違い、歯肉縁上歯石は乳白色であることが多く、歯肉縁下歯石は褐色や暗褐色の物が多くあります。
この色は細菌によるものと血液成分によるものです。
歯石が及ぼす影響
歯石を顕微鏡で観察すると細かい穴があります。
軽石のようというとイメージしやすいかも知れません。
この細かい穴は歯ブラシの毛も届かないので細菌の格好の棲家になります。
見た目ではわかりませんが歯石の周りにはものすごい量の細菌が棲んでいると思って下さい。
前項で歯石はプラークが原因とお話ししました。
プラークは磨き残した部分に付着しています。
食事でも擦れやすい歯の先や咬む面には付きにくく、歯と歯の間や歯の根元の歯肉に近い部分に付きやすいのです。
歯肉に近い部分に歯石が付くとそこに棲みついている細菌が歯肉に攻撃をします。
そのことで歯肉は赤くなったり、腫れたりします。これが炎症です。
どんどん進行すると炎症が広がり歯を支える骨まで溶かし始めます。
さらには歯石が成長すると歯肉を覆ったりして組織を傷つけることもあります。
そのため歯石は早いうちに除去する必要があるのです。
歯石を取るために
歯科衛生士は歯石を取るためにまず歯肉の状態を調べます。
歯肉をチクチクと触るあの検査です。
プローブというメモリのついた器具で歯と歯肉の隙間の深さを調べます。
深さを調べることによって歯を支えている組織にどのくらいのダメージがあるのかを診ていきます。
そして歯肉からの出血の有無を診ます。
歯肉を軽く触って出血があるということは炎症があるという目安になります。
それから深さだけでなく見えない歯肉の下にどのように歯石が付いているかも調べていきます。
見えない歯石を探知することはとても難しいですが指先の感覚に集中して懸命に探っているのです。
しかし手指の感覚だけではなく目視の情報も重要になってきます。
歯肉にエアーをかけると目で見て歯肉の中に歯石がついていることを確認できることもあります。
またレントゲンにより歯石が沈着していることを確認することもできます。
細かいものでは確認できないこともありますが、大きなもので硬くなってきているものであればレントゲン写真で歯の表面にモヤモヤと白く付着していることを確認できます。
様々な情報を駆使して歯科衛生士は歯石を取り除くための器具を選択します。
まず歯石を取る機械で『超音波スケーラー』というのがあります。
日々とても頻繁に使用される機械で広範囲に付着した歯石を除去するときに活躍します。
メリットとしては早く広範囲の歯石が除去できるということと、歯の正面から歯石を取り除くのみならずお水が出ることで洗浄する働きもあります。
そしてこの洗浄するお水が超音波の振動によって真空の気泡を作り出し、それが弾けるときに細菌の手足である繊毛や細胞壁を壊し殺菌作用が得られます。
これをキャビテーション効果と言います。
また機械の先端のチップが細かく振動することで狭い歯周ポケット内で渦巻きのような激しい水流が生じ、バイオフィルムを破壊してくれます。
これをアコースティックマイクロストリーミング効果と言います。
そして手用スケーラーに比べて歯肉や歯の表面を傷付けにくいという利点もあります。
良いこと尽くめのようですがデメリットもあります。
心臓にペースメーカーを使用している方では、機種や状態によって使用を控える場合があります。
またお水を出しながら使うので知覚過敏が強い人や鼻呼吸が苦手な人にも使用を控える必要があります。
こういった方には『手用スケーラー』を用いて地道に取る必要があります。
この場合、どうしても時間が掛かってしまうため数回に分けてお口の中をクリーニングする場合もあります。
そして手用スケーラーには様々な種類、形態があり使いこなすためには熟練度が問われます。
そのため歯科衛生士は学校で習っただけでなく、卒業し臨床に出てからも様々な勉強会でトレーニングを積んでいるのです。
終わりに
今回は歯石についてお話しさせて頂きました。
歯石を語る上で切っても切り離せないのがプラークの存在です。
歯石がプラークの温床となり、そのプラーク内の細菌が様々な問題を起こします。
「わかってはいるけれど…」「歯石取りはやっぱり苦手…」そういう方もまずは歯科医院で歯石がつきにくくなる方法を相談してみて下さい。
磨きにくくなっている古い被せ物があればそれを治すと磨きやすくなり歯石がつきにくくなるかも知れません。
歯の表面に細かい傷があるとそれを足掛かりに汚れがつきやすくなることもあります。
そういう場合は歯の表面を研磨することで予防できるかも知れません。
また数年振りに歯科医院を受診した時に大変な思いをした方であれば、短い期間での歯石取りで負担を軽減できるかも知れません。
時間が経てば経つほどに歯石を取るのは大変になってきます。
まずは歯科医院で診てもらいましょう。
そして定期検診で3ヶ月ごとの受診がいいのか、6ヶ月に1度でも大丈夫か、その人それぞれに適した期間を決めてもらいましょう。
そして無理なくお口の中の清潔な状態を維持し、お口だけでなく全身も健やかに保てるようにしましょう。
