耳の辺りが痛い、口が開けにくい、それ顎関節症かも知れません
皆さんは顎関節症をご存知でしょうか?
顎が痛い、口が開きにくい、口を開けると音がする、こんな症状があると顎関節症かも知れません。
今回はその顎関節症についてのお話です。
1.顎の関節について
皆さんは「顎を指差して下さい」と言われたら、どこを指差しますか?
口の下?耳の下?
顎の関節(以降、顎関節と表記します)はどこにあるかご存知でしょうか。
顎関節症は耳と目尻を繋いだ線上で耳から指1本分の所にあります。
頭の骨の凹み(下顎窩と言います)に下顎の突起部分(下顎頭と言います)がはまる様な形で関節ができています。
顎関節はこの骨と骨の間に関節円板という物があります。厚さ約1〜2mmで弾力があります。関節円板は繊維性の結合組織で血管も神経も殆どありません。そのため関節円板そのものは痛みを感じる事はありません。
顎関節は少し特殊です。口の開け閉めだけではなく、前方や左右に動く事が出来ます。この運動ができることによって前歯で噛み切ること、奥歯ですり潰すことが出来ます。これは顎関節の特殊な運動によるものです。
下顎頭の動きは回転運動と滑走運動があります。この滑走運動によって前方や左右への動きができるようになっています。膝や足首では関節がずれるような動きをしたら脱臼になってしまいますね。
顎関節も限界を超えると脱臼はします。脱臼状態が長引くと咀嚼筋や靭帯が伸ばされてしまうため早急な処置が必要です。
それから顎を動かすための咀嚼筋は主に4つあります。
咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋です。それらの中でも咬筋と側頭筋は触れて感じることができます。
咬筋は目の下あたりの頬骨(正確には頬骨弓)から耳の下の顎の角(下顎角)の間にあります。頬を触ったときに感じる筋肉です。
側頭筋は耳の上あたりに扇状に広がる筋肉です。どちらもぎゅっと噛んだ時に膨らむので触るとわかると思います。
2.顎関節症とは
顎関節症と言っても色々な症状があります。
顎関節の痛み、咀嚼筋の痛み、顎関節の雑音、口が開かないなどの顎関節運動の異常を主要な症候とすると定義されています。
それらの症状を含まず、首が痛かったり頭痛がしたりめまいがあるなどの症状だけでは診断はできません。顎の関節は頭部にある事で症状がはっきりしにくいですが、しっかり見極めることが重要です。
3.顎関節症の分類
顎関節症はⅠ型からⅣ型までに分けられます。Ⅰ型は咀嚼筋に痛みがあるもの、Ⅱ型は顎関節そのものに痛みがあるもの、Ⅲ型は関節円板の位置異常などによる障害(その中でも関節円板が元の位置に戻るものと戻らないものに分けられます)、Ⅳ型は関節軟骨や円板、骨などに変形などを生じているものとしています。
痛みがあるものの中でも咀嚼筋の痛みなのか、顎関節の痛みなのかで大きく二分されます。
どちらも下顎を動かしたり、下顎に負荷をかけたりした時に痛みが生じます。
大きく口を開けたり、硬いものを噛んだり、力を入れる時に食いしばったり、おしゃべりをしている時、あくびをする時などに痛みを感じます。
黙っていても痛みがある時は顎関節症ではないかも知れません。もしくはずっと痛みがあり、顎を動かしたり力を入れても痛みが変わらない場合も顎関節症以外の可能性があるかも知れません。
関節の異常の中でも多いのが関節円板の異常です。関節円板の位置異常ではクリック音と言われる、「パキッ」や「カクン」という音がする事があります。
また下顎の関節の骨が滑走運動をする際に関節円板が邪魔をして口を大きく開けられないなどの開口障害を生じる事があります。
これらは両方の関節に生じることもあれば、片側のみに生じる事もあります。
そして関節を担う下顎の骨の突起(下顎頭)の変形を伴うものもあります。
これは関節円板の異常と関節雑音(ジャリジャリやガリガリといった音)を伴うことが多くあります。
関節円板の異常でずれた関節円板が元に戻らない事が長く続くと骨に変形が生じる事が多い様です。
4.顎関節症の原因
実は顎関節症の原因には必須の原因がありません。つまり、これをするとこれがあると顎関節症になるという原因は無いのです。
顎関節症はいくつかの要因が積み重なり生じます。この顎関節症に関係する要因は環境、宿主、時間など様々あるようです。顎関節症はかなり個人差があると言えます。
顎関節症のリスク因子について例を挙げてみます。
・寝ている時、もしくは起きている時の歯ぎしりや食いしばり
・習癖(片側で噛む、ガムなど習慣的に噛む、爪を噛む、頬杖、硬いものを噛むなど)
・バイオリンなどの楽器の演奏や物を噛んだり加えたりする仕事
・外傷(激しいスポーツや事故などでの接触)
・長時間のゲームやデスクワーク、読書や細かい作業など集中を要する作業
・本人の噛み合わせや骨格などの要因、痛みの感受性、心理・精神的要因
これらの要因を私たちは患者さんに問診したりしながら改善策を考えていきますが、今特に注意をしたいのがTCHと呼ばれるものです。
私たちは通常リラックスをしているときはお口は閉じています。
しかし、閉じた口の中では上の歯と下の歯はわずかに隙間があり歯が離れているのが正常なのです。
食事や会話以外の時に歯が常に上下触れ合っているものをTCH(歯列接触癖)と言います。
この歯と歯が触れ合っている時間は1日のうちわずか10〜12分程度だと言われています。
小さい頃、「お口閉じなさい!」と言われた人は多くいるのでは無いでしょうか?しかしそれに加えて『お口は閉じても歯は離しなさい』とは誰も言ってはくれなかったと思います。
従って普段上下の歯は離れているのが正常ですというと驚く方が多いのです。
このわずかに触れる程度の接触でも積み重なると大きな症状を起こす事があります。
常に筋肉を収縮させていると筋肉に痛みが出るのもなんとなくお察し頂けると思いますが、それのみではなく歯周病の進行や感覚異常、入れ歯の痛みに繋がる事もあるのがこのTCHというものです。
5.顎関節症の治療
まず顎関節症は時間経過とともに改善し治癒していくことが多いと言われています。そのためまずは状況をご説明し不安感と和らげるところからスタートします。
また、顎関節症の治療は歯科医師が何か施術するだけではなく、患者さん自身に取り組んでもらう必要があります。
例えばTCHの改善のために無意識に噛んでいると気づいた時は意識的に歯を離すように心掛けて頂きます。
パソコン仕事をしている時に噛み締めている人には画面の横に付箋で歯を離すと書いて張ってそれを見たら気を付ける工夫をしてもらいます。
症状が出ている急性期ではまずは安静にして頂きます。大きくお口を開けないよう注意して、あくびをする時は下を向くようにお話したり、食事は硬いものは避け辛く無い程度の食事を摂るようにしてもらいます。痛みが強かったり、なかなか取れない時は鎮痛剤を処方もします。
痛みが取れることがまず第一になります。そしてお口が開かない場合、少しずつ開けれるようにする事を目標にしていきます。これには顎のストレッチ運動もお伝えしています。
また状態によってはスプリントというマウスピースを装着してもらう事があります。
しかしカクカクしたり雑音が全くしなくなる事は目標とはしません。
前述したように、異常があっても痛みや違和感を訴えない方は診断がつかない事があります。
これは例え関節に何らかの異常があっても日常生活に問題がなければ良いという判断になるという事です。
つまり顎関節症の治療のゴールはQOL(生活の質)が改善し保たれる事を目標にしていくのです。
6.顎関節症の予防
今回は顎関節症は様々な因子により生じるとお話ししました。
顎関節症を悪化させない、予防するために以下のことを注意してみてください。
・痛みがあるときは大きく口を開けず、硬いものは無理をして噛まない(痛みが出ている場合の悪化防止)
・硬いものを長時間咀嚼をしないように意識しましょう
・食事以外では歯を当てないように意識しましょう
・姿勢を良くし、頬杖はしない、顎を前に出したり日中の歯ぎしり、食いしばりはしないようにしましょう
・ストレスを溜めないようにしましょう
7.まとめ
顎関節症は時間経過とともに改善し、治癒していくことが多い病気と考えられています。そのため患者さんの自覚症状は保存的な治療によって良好に改善するケースが多いと言われます。
あまり深刻に考えず、生活に支障のないレベルでうまく付き合っていく事を考えていきましょう。また顎関節症以外に区別する病気も多いため個人で診断するのではなく、まずはお近くの歯科医院で相談することをお勧めします。