口呼吸は病気の元?感染症や全身の病気との関係
口呼吸のデメリットについて、これまで2回に渡りコラムでご紹介しましたが、今回は風邪などの感染症と口呼吸の関係、さらに、口呼吸をきっかけに全身の病気を招く可能性について、お伝えさせて頂きます。
1.風邪にかかりにくくするには?口呼吸との関係
私たちの身の回りには、実に200種類以上もの風邪のウイルス(ライノウイルスやアデノウイルスなど)が存在するといわれています。こうしたウイルスから身を守るためには、日頃からの免疫力が重要です。
鼻の内部には細かな毛や白血球があり、外部からのウイルスや細菌をブロックしています。口呼吸の習慣があると、鼻によるブロックが働かず、口や喉の粘膜も乾燥しますので、ウイルスが侵入しやすくなってしまいます。
普段から鼻呼吸を意識することがとても大切です。
2.口腔内環境とウイルス感染の仕組み
ウイルスはどう侵入する?新型コロナウイルスを例に
口腔内環境とウイルス感染の仕組みについて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を例に見てみましょう。
コロナウイルスの表面には突起のような部分があり、人の細胞の表面には「ACE2受容体」という、鍵穴のような構造があります。この2つが鍵と鍵穴のように結合すると、ウイルスは体内に侵入します。
ACE2受容体は、舌の粘膜に多く存在しています。つまり、口呼吸で唾液の抗菌作用などが弱くなると、舌粘膜からウイルスが侵入しやすくなってしまいます。さらに、喫煙の習慣がある方は口腔内の環境が悪化し、ACE2受容体が増加しやすいことも報告されています。
歯周病と重症化リスク
歯周病がある方は、新型コロナウイルス感染症が重症化するリスクが高まると指摘されています。
ウイルス感染によって、体内では「炎症性サイトカイン」という、免疫細胞を働かせる物質が分泌されます。しかし分泌が過剰になると、本来守るべき正常な細胞まで攻撃してしまう危険性があります。
炎症性サイトカインの一種に、IL-6というタンパク質があります。このIL-6は歯周病でも増加する為、歯周病はCOVID-19の重症化リスクを高めるという説があります。
さらに、歯周病原菌の誤嚥が、ACE2、および下気道の炎症性サイトカインを増やしてCOVID-19の症状を悪化させる可能性も考えられています。
(新型コロナウイルス以外のウイルスでは、色々な侵入のしかたがありますが、こうした「鍵と鍵穴」のような結合で体内に入り込むものが一般的です。また、細菌も種類によって様々な侵入経路がありますが、主には、口や喉、鼻、目などの粘膜に付着して侵入します。いずれの場合も、鼻のバリア機能を働かせ、口腔内の乾燥を防ぐことが効果的です。)
入院中の口腔ケアの重要性
その他、入院をする場合にも、感染症の罹患に注意が必要です。
入院生活が長くなると、歯科に通えず、専門的な口腔ケアを受けにくくなります。その結果、お口の中で増えてしまった細菌が唾液や食べ物と一緒に誤って気道に入り、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。
口腔内細菌は炎症性サイトカインの増加も招く為、分泌の過剰による、肺炎の重症化リスクも高まります。入院中も口腔内を良い状態に保つことが大切です。
3.お口の中の免疫組織と全身とのつながり
その臭いの元は免疫反応?口蓋扁桃と膿栓
お口からぽろっと、小さな白い塊が出てきたことはありませんか?
この塊は「膿栓」と言い、潰すと強い臭いがします。口臭の原因にもなります。
膿栓は、お口の中の「口蓋扁桃」と呼ばれる部分で、ウイルスや細菌に対して免疫が働いた為に生成されます。
ここでは口腔と免疫の関係として、口蓋扁桃について見ていきましょう。
口蓋扁桃(こうがいへんとう)とは
よく「扁桃腺」と呼ばれる部分の一部で、喉の奥にあるリンパ組織です。体をウイルスや細菌から守る重要な役割を担っています。
喉には「ワルダイエル咽頭輪(いんとうりん)」という、輪のようにぐるりと喉の奥を囲むリンパ組織があります。ワルダイエル咽頭輪は咽頭扁桃・耳管扁桃・口蓋扁桃・舌扁桃から成り立ちます。口蓋扁桃はワルダイエル咽頭輪の一部で、最も大きい部分です。多数の小さなくぼみがあり、表面積が大きく、外敵をしっかりキャッチできます。
口蓋扁桃は体を守っていますが、同時に、細菌などが入り込む入口でもあります。ウイルスの増加や口腔内環境が悪くなると、口蓋扁桃の炎症が悪化し、慢性化することがあります。
膿栓(のうせん)とは
慢性的な口蓋扁桃の炎症に対して、免疫が働いた結果作られる、小さな白い塊です。
・細菌の死骸
・白血球など免疫細胞の死骸
・剥がれ落ちた粘膜
・食べかす
などから構成され、口蓋扁桃に付着します。
喉の炎症が腎臓に影響?「病巣疾患」とは
こうした扁桃の慢性的な炎症が続くと、体の免疫システムの一部であるIgA(免疫グロブリンA)が過剰に作られます。その結果、腎臓に炎症が起きる「IgA腎症」という病気を引き起こすことがあります。つまり、扁桃の状態は腎臓の健康にも関係しているのです。
このように、他の臓器に二次的に病変を引き起こすことを「病巣疾患」と言います。口呼吸による乾燥がきっかけで、思わぬ病気を招くことがあるのです。
歯周病が全身の病気の引き金に?
実は歯周病も、様々な全身疾患の一因になると考えられています。
・糖尿病
・心疾患
・脳卒中
・慢性腎炎
・慢性関節リウマチ
・低体重児出産・早産
・誤嚥性肺炎
など
これらの病気との関連が指摘されています。
日頃からのお口のケアが、全身の健康の維持にも重要なのです。
4.鼻呼吸を身につけるトレーニング

これまでの口呼吸についてのコラムの中で、
・あいうべ体操
・吐き戻し(ピロピロ笛)トレーニング
・シャキアトレーニング
などをご紹介してきました。どれも鼻呼吸を身につける効果的なトレーニングです。是非、日常の中に取り入れてみて下さいね。
【まとめ】お口から始める、病気になる前にできること
ここまで、口呼吸と免疫、全身の病気との関係について見てきました。
「上流医療」という考え方がありますが、川の流れに例えて、病気が起こる前の段階(=上流)にアプローチする医療です。口呼吸の改善はちょうど「上流」に当たり、感染症や、全身の様々な病気の予防に繋がります。 当院でも、予防的な医療の提供を大切にしています。気になる症状があれば、お気軽にご相談下さい。お口と全身の健康を維持の為に、歯科をご活用なさってみて下さいね。